夫婦別姓問題において、まるで都市伝説のごとく「ありそうで存在しないもの」が通称使用案です。定義するなら、「夫婦の戸籍上の氏は同氏にして、社会生活上不便があるなら通称として旧姓を使う。その不便を軽減するため法案」を指すようです。しかし、それでは現状と何ら変わりません。通称では「公称ではない」ことで不便が生じ、だからこそ夫婦別氏制度が求められているのです。どんなに利便性を高めるために通称使用可能な範囲を広げても、公称でなければ、解決にはなりません。しかし頑なに通称使用案を解決策として信じる人がいますので、もう少し深く追ってみます。
夫婦別姓反対派はしきりに「通称案があるだろう」と言います。しかし、有効な実物はどこにもありません。以前、元衆議院議員高市早苗氏が構想を提案したことはあっても、それだけなのです。高市氏のHPにも一言も掲載されていません。掲載された実績もありません。構想だけではあるとはいえません。
多くの人が通称案の存在を信じてしまうのも、それをあるもののように語る存在がいるからです。例えば産経新聞は2004年3月12日に「夫婦別姓 法案は当然見送るべきだ」という社説(主張)を掲載しました。かいつまんで引用すると、「反対意見の中の「通称使用を認めればよい」という考え方は、高市早苗前衆院議員が示した戸籍法の一部改正案に共通している。(中略)法務省案や「実現させる会」の民法改正案より、はるかに現実的である。(中略)高市案が今でも説得力を失っていない証左だ」とあります。
大手メディアでこういう文章が掲載されるので事情に詳しくない人には通称案があるかのように思えてしまうのです。
しかし産経新聞が高市案を「はるかに現実的」と評価していても、現実に存在しないのですから説得力も有効性もありません。
念のため、産経新聞に上記社説で言及した高市案とは何を示すのか?と問い合わせたところ、「平成13年12月24日付産経新聞「ニュースウオッチ 夫婦別姓なぜ法制化」で触れている」との回答がありました。その記事では用語解説として「高市案」の解説があり、それによると「選択的夫婦別姓制度に反対する高市早苗議員は十一月、戸籍法の一部改正案を自民党部会で提案した(以下、構想の概要なので略)」とあります。ここには「提案」とありますが「提出」ではないことに注意しなくてはなりません。
平成13年から現在に至るまで、高市氏は口頭にて通称案の改編を発表していますが、現在自民党では高市案や戸籍法改正案なるもの、通称使用で不都合を解消するための法案らしきもの、そういったものは法務部会に提出されていません。提出しないまま、国会を去りました。誰も高市氏の案を引き継ぐ人はいません。
そうでなければ、2004年の法務部会で反対派が「通称で十分だ」と言い張り、「対案を出してほしい。どこにあるのか」と推進派が質し、反対派が「ぼくの心の中に!」などという頓珍漢な応戦はありえません。(詳しくはこちら)
他のメディア、個人の論評でも、いまだかつて高市案の存在を裏付けるものはありません。高市案、または通称使用案、はたまた戸籍の一部を改正する案、これらはすべて実在しません。あるというのなら、条文をきちんと公表するべきです。
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