2色のガーベラ 夫婦別姓資料館

解決できません。通称で十分な人がいるのは確かですが、現状の通称では限界があるからこそ通称に頼らない選択肢、つまり夫婦別姓の法制化が求められています。

通称とはその言葉が示す通り「通り名」であり、公的に証明できる氏名ではありません。いっぽう現実的には業務や日常生活において、公的に証明できる氏名が必要な場面があります。例えば、銀行口座とそれにリンクするクレジットカード、ローンや保険の契約、身分証明書としても使う免許証や資格証明書は、適切に運用するために公的な氏名で用いることを想定しています。金銭の授受や公的な書類を公的な氏名でない通称で運用しようとするのは無謀ともいえます。

そこで旧姓を本名に準じる氏名として公的に認めようと「旧姓を公的書類に併記すればいい」と考える人もいます。これが「通称使用の拡大」または通称使用を法制化する「通称使用案」などという発想の基盤となっています。提案者は軽率にも公的な通称(旧姓)で会計処理や身分証明を行えることが可能と考えます。

しかし、通称を本名として扱うことは問題があります。公的書類に併記された公的な通称であったとしても、公的書類に記載された時点でそれはもう通称ではなく公的な氏名となります。そうなると1人につき2つの公的な氏名を与えることになります。ここが通称使用案で最も懸念すべき部分です。常に併記するにしても、好きな方を選べるにしても、日本社会に深刻な悪影響が懸念されます。

まず併記ですが、現代日本では海外のように2つの氏を併記する習慣はありません。もし新旧の氏を併記するなら、ほうぼうでシステムの対応が必要となります。それに例えば銀行口座名義は結婚姓なのに、旧姓名義の小切手や旧姓でローンを組むということが果たして可能でしょうか。

併記ではなく片方のみで運用できるなら、それも疑問です。常に旧姓のみで運用できるなら、本名の存在意義がなくなります。それよりも新旧自在に操れるかのような制度では、社会的な安全性に致命的な悪影響を及ぼす懸念が生じます。例えば免許証は旧姓でパスポートは結婚姓などという運用も可能となれば、混乱が生じるだけどころか、犯罪への悪用も考えられます。そうした懸念材料を払拭できるような合理的な運用方法はいまだかつて提案されていません。

通称使用案は大半は思いつきで、少なくとも法的な考慮が足りないものばかりです。そもそも公的でないからこそ通称なのに「公的な通称(旧姓)」とは、言葉や概念からして矛盾を抱えています。

かつて元自民党衆議院議員である高市氏が通称使用案の構想を掲げたことがありますが、これは構想のみで法案の形をなすものはいまだに公表されておりません。高市氏は戸籍法を数条だけ改正すれば十分だと吹聴しましたが、全くのデタラメです。だからこそ、法案として提出されることがないのでしょう。

正確には、もし1人が2種類の公的氏名を持つように法制化するとなると、400ほどの法律を改正しなくてはなりません。法制化することも、運用の面からも、通称使用を拡大することで解決を図ろうとするのはかなり困難です。なによりも安全かつ適正に氏名が運用できなくなります。

ついでながら、旧姓をミドルネームのように表記する人もいます。これなら多少不便が解消されることもあります。しかし公的書類にミドルネームは掲載できませんので、通称の範囲内でしか用いることができません。現時点では公的書類には「氏」と「名」しかありえないからです。

参考:通称使用法定案の問題点(大森 政輔 弁護士)

前の項目へ次の項目へ画面先頭へ ↑↑誤解メニューへ ↑↑↑トップページへ