通称使用を支持する理由に「1つの家族に複数の氏があると混乱する」という意見があります。しかし、それよりも「1人に複数の氏がある」ほうがより混乱します。
年賀状を出す場合や家族同士の付き合いでは、相手方が夫婦別姓や親子別姓ではどう対応したらいいのか分からずに不安だという声があります。例えば年賀状や結婚式の案内など、どうやって連名を扱えばいいのかなど。未知の場面や指針がない場面を懸念し、家族全員同じ氏であることを望むようです。自分の安心感のために。
または「氏」が家族に与えられた名称と誤解している可能性もあります。だからこそ、同じ家族なら同じ氏でないとならないと考えるようです。確かに、かつて氏や姓は一族や集団名というような性質もありました。しかし歴史上の「氏」と現代の民法における「氏」を完全に同一視することは適切ではない場合もあります。
少なくとも現代の公的書類では、一人ひとりそれぞれに氏名を持つようになっています。「氏」とは1人の人間が持つ公的な氏名の一部分です。特に注意すべきは、家族という集団が持つ名称ではないということです。現に現代の民法では家族や一族に公的な名称を登記することは行っていません。
制度がひとつの家庭にひとつの氏しか許可しないことで、面倒に直面せず安心できる人もいるでしょう。しかし結婚改姓すると甚大な不都合に直面する人にとっては、通称を使うか婚姻をあきらめるか、どちらかを選ばなくてはならなくなります。
1人の人間に複数の氏があるとなると、常にどちらの氏を名乗るのが適切か判断しなくてはならなくなります。後から「実はこれは旧姓で、本名はこちらで」と訂正したり、場合分けすることはとても煩雑です。
「ひとつの家族に複数の氏があると煩雑である」ことが問題であるならば、逆に「ひとりの人間に複数の氏(特に業務上)があると、より煩雑である」といえます。
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